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第一はトラブル予防から
「ヒト」の管理は「ヒトの心」の管理であると言われます。「ヒト」は多種多様な考え方・人格を持っており、それを管理するなど、土台無理な話なのかもしれません。
個人の考え方の違いのみならず、そもそも経営者と社員とでは立場が違いますし、世代間によるギャップが生じることもあるでしょう。中途採用の場合など以前の職場との違いに戸惑うこともあるでしょう。最近では、外国人労働者の問題(文化の違い)やジェンダー問題など、新たに会社が(社会も含めて)取り組んでいかなければならない課題も出てきています。
それでも、トラブルがなるべく起こらないように、そして仮にトラブルが起こってしまっても対応できるように、準備をしておくことはできます。
- 労使が同じ目標に向けて進んでいけるように、会社が指針・方向性を示しておくこと
- 就業規則など会社のルールを整備し、従業員に周知しておくこと
- 三六協定を監督署に届出しておくこと
- とにかく労働時間だけは正確な時間把握と管理を行うこと(最重要です。)
- 雇用契約書をきちんと交わしておくこと
- 法定の健康診断を毎年実施すること
- パワハラ、セクハラ、マタハラなどハラスメントに関する研修会を行うこと
- 従業員からの労務に関する質問に、人事担当者が答えられるようにしておくこと
- 就業時間と休憩時間の定義付けをきちんとしておくこと
- 気軽に相談できる窓口(第三者の窓口・秘密厳守の窓口)を設置すること
- 賃金変更(特に引下げ)のときは必ず本人の同意書を採っておくこと
- 適正な人員配置、配置転換を上手に活用すること
- 懲戒処分を適正行うこと(きちんと手順を踏むこと)
などで、かなりのトラブルは回避できます。トラブルを起こした社員も会社にとって大切な人材です。トラブルで、雨降って地固まることはほとんどありません。会社も本人も周りも傷つき疲弊するだけで、誰のためにもならない不幸な出来事です。『知っていれば防げた』、『準備しておけば防げた』トラブルはなるべく回避しておきたいものです。
【問題社員への対応】
[目的]
- 言動・勤務態度を改めさせること(目的はあくまでもこれです)
- 証拠・実績の確保(労働審判・裁判対策)
よく社労士は「今後のことを考え、注意や指導をした証拠を残しておいてください」とお話しします。しかしそれは二次的なもので、本来の目的は、処分の正当性や裁判の証拠づくりのために注意している訳ではありません。本来の目的を忘れると、本音を見透かされて逆効果になってしまいます。
[心構え]
- 逃げない
本当は誰だって注意したくはないです(注意する方も気が重い。下手に注意すると嫌な顔をされたり言い返されたりして気分が悪い。相手に対して何か申し訳ないことをしているような気持ちになる。面倒くさい。いずれ分かってくれるだろう、等。)。注意しないための言い訳など、いくらでも言えます。しかし嫌でも頑張って注意するのが、経営者・管理職の仕事であり義務です。注意しないで分かってくれる日など一生来ません。 - 相手の言動に過剰反応しない 仕事としての行為なのですから、堂々とした態度で、心の中は冷静に注意してください。相手が何を言ってきても、仕事(業務)上必要な正しい行為として、淡々と注意すればいいと思います。
[覚悟]
- 先延ばししない
注意・指導は鮮度が大事です。何かあったときにすぐに言われれば、何について注意されているのか明白ですし、この職場は問題を起こすとすぐに注意されたり、上に連絡が行ってしまうところだと認識し、問題行動の抑制に繋がりますが、間が空いてしまうと罪の意識も薄れてしまうので、問題社員は何を今更と、自分で問題を起こしておいて、注意された相手に不信感や反発心を持つようになります。また、その放置している間に、他の社員が迷惑を被り続けているということも忘れてはいけません。 - この注意・指導で解決するという覚悟を持つ
初めて注意されました。しかし改善されませんでした。すると一度目で耐性ができてしまった問題社員を改めさせるためには、二度目はもっと強く注意しなければ効く訳がありません。それでも改まらなければ、次はもっともっと強く注意しなければならなくなります。つまり、最初から厳しい注意をしないで、中途半端な注意を繰り返すことで、問題社員は行動をますますエスカレートさせ、どんどん図太い巨大なモンスターと化していくことになります。
問題社員対策は多くの会社で頭を悩ませており、社労士も懲戒処分や社員研修の実施など様々な提案をします。
しかし、そもそも最初の注意で問題行動が収まっていれば、そのような難しい対応は必要がありませんでした。
問題行動が収まらないのは、注意が足らなかったから、注意が相手に届かなかったからです。経営者や上司に、真正面から嫌になるくらい厳しい注意を受けて、それでも態度が改まらないというような図太い神経の持ち主が、いったいどの位いるのでしょうか。
問題行動をエスカレートさせ、強力になっていくモンスターに、嫌な思いをしながら長い間付き合っていくことになるよりも、その前に初期の段階で食い止めてしまった方がすっと楽だと思うのです。
【トラブル事例】
1・内容
業種によっては人手不足などの理由から、人員確保の必要性が高いと、応募者の能力が低いことに気づいていながら、採用してしまうことがあります。
『全然経験のない素人だけど、真面目そうだから雇ってみるか。』
『ちょっと難しい気がするけれど、あの人の紹介だから仕方ないか。』
『本当なら採用基準に満たないが、一生懸命に努力するというのならチャンスをやろう。』
『性格は良さそうだから。』
能力が低いことを知っていながら採用する場合、最初は戦力にならないこと、難易度の低い仕事を準備して担当させるところから始めるなど、仮に人の何倍時間が掛かっても、一から育ててあげるという覚悟が必要になります。
2・結果
『やっぱりあいつダメだったよ。でも使用期間中だから、辞めてもらえるでしょ。初めに本人にも、本当なら採用基準に満たないから不採用だけれど、可哀想だからヤル気を見込んで様子見で雇うと言ってあるし、本人も納得してくれるでしょ。』
『いいえ、そう簡単には辞めてもらえません。』
使用期間中に解雇できるのは、「労働契約で予定されていた能力」が無かったからです。優秀な人材だと思って雇ったのにダメだった、は仕方がありません。見る目が無かっただけです。でも、今回の場合は、能力が低いと分かっていたんですよね。しかもそれをご本にも伝えています。能力不足による解雇は、元々使用期間中といえどもそれなりにハードルが高いのに、能力が低いと思っていた人がやっぱり能力が低かった、というのは予定通りであり、何も錯誤がないのに解雇できるというのは、いったいどこから出てくる話でしょうか。
可哀想だから、ではありません。能力不足と一度否定をしておいて、それでも雇ってやる(頑張ればモノになる。)と期待させておいて、大して指導も教育もしていないうちに、やっぱり能力が足りないから辞めてくれと、二度も能力を否定することの方が余程可哀想です。
3・説明
能力不足と分かっているならば、初めから不採用にして、他の自分に合った会社を探してもらうことの方がむしろ本人の為ですし、もし雇うのであれば、一度雇ったからには能力が低くても我慢強く雇い続ける覚悟が必要、ということになるのです。
一度雇った以上は、本気で教育・指導を行って育ててあげてください。目標を設定し、ノルマを課し、何度も何度も面倒くさがらずに、しつこいくらいに教えてあげてください。その指導に頑張ってついて来ることができれば、戦力になっていくでしょうし、無理だと思えば自ら進退を考えるかも知れません。ただし、辞めさせる目的での厳しい指導は、絶対にいけません。あとは、能力に見合った評価をきちんと下すことです。
【就業規則があれば】
就業規則は会社のルールブックのようなものです。
しっかり規定をし。明記しておけば防げるトラブルもあります。
例えば・・・
賞与査定期間に在職をしており、支給日前に退職、、、
退職後に賞与支払いを要求された。
このようなケースも、就業規則にて明記していれば防げるトラブルになります。
現在の就業規則に明記されていなければ、改訂をすることをお勧めします。
変更・改訂をするにも手順、労力がかかります。
せっかく変更・改訂をするのであれば、会社にあった就業規則を作りませんか?
現在の就業規則が昔作ったものでしたら、現在の法律・会社の状況に合っていない可能性が高いです。
気になりましたらご相談下さい。